9月6日の木曜日、もう夜の11時をとうにまわっていた。若武者坂本勇人の一打がセンター前に弾んだ時、筆者は5年ぶりの栄光へのきらめきを確かに見た。しかし、それは全くの錯覚に過ぎなかった、あんな素晴らしい試合の後にこんな残酷な結末が待っていたとは・・・。
2007年セントラルリーグの覇者の欄に読売ジャイアンツの名が刻まれる可能性はほぼ消えた。残り試合17で阪神との負け数差5は事実上絶望と言っていい、乱打戦、投手戦、乱打戦と続いた3戦をすべて1点差で落とした結果から見えるものははっきり力の差。選手個々の力、精神力、団結力そしてベンチワーク、すべてが阪神に及ばない厳しい現実だった。
筆者ははっきり言って、阪神も阪神ファンも大嫌いだが、それでも昨年の驚異的な粘り、そして今年の怒涛の追い込み、その諦めを知らない不屈の闘志には素直に敬意を抱く。そこにはダメ虎と蔑まれ続けたかつての姿はもうない。突如としてチーム改革に成功し、今や圧倒的なファンの支持を集めるタイガース、そのタイガースの上昇と反比例するかのようにチームの力もファンの支持も凋落の一途をたどる我がジャイアンツにとってタイガース再興への道筋は大いに研究すべきであろう。
この惨連敗にガックリ来て、まさかクライマックスシリーズの出場権まで失うとは思わないが、筆者は前にも書いたように、シーズン優勝にこそ価値を見出しているだけに、どうしても今年こそは勝って欲しかった。松井秀喜がチームを去った後から続く無残な敗北の歴史に終止符を打ちたかったし、本当は書きたくはないのだが、もし、今年勝ち逃すとたぶんもう当分優勝できないという焦燥感があったからだ。
「失われた10年」という言葉が一時はやったが、ジャイアンツにとって1994年から今日に至るまでの年月はまさに「失い続ける14年」である。1993年オフから導入された悪名高いFA制度と更に少し遅れて始まった逆指名ドラフト、いずれも当時球界の盟主として絶大な力を誇ったジャイアンツのゴリ押しでスタートしたものであることは今更言うまでもこともない。そしてほぼ思うがままの「補強」を続けてきたはずのジャイアンツの戦歴の惨憺たる有り様はファンとして口にもしたくないほどである。
はっきりしていることはあの時点からジャイアンツははっきりと「育成」というものを放棄した。いい選手を他球団から、即戦力といわれている選手を社会人、大学から獲ってくることに狂奔し始めたのである。いや、それまでもジャイアンツにはその気が多々あったと言われるかもしれないが、それでも王貞治、柴田勲、堀内恒夫、高橋一三、森昌彦といったV9戦士の名を挙げるのがいささか古いとしても、その後も西本聖、篠塚利夫、岡崎郁、川相昌弘、駒田徳広、吉村禎章、槙原寛巳、斎藤雅樹、村田真一・・・多摩川から這い上がってジャイアンツの歴史に名を刻んだ選手は枚挙にいとまはない。
そしてその歴史は松井秀喜を最後にプッツリとぎれてしまう。今、ジャイアンツのスタメンに名をつらねる野手はものの見事に大卒か外国人を含む他球団からの移籍組だ。控えを見ても先述の坂本の他に捕手の加藤健がいるのみだ。更に二軍に目をやると絶望的な気分になる。明日のジャイアンツを託しうる逸材が全くといっていいほど見当たらない、みんなとうのたったベテランかもう伸びることも望めない中堅のオンパレード、高校出の若手野手はなんとルーキーの田中大二郎と伊集院峰弘の2人しかいないという驚愕な現実。大卒、社会人出の選手は確かに高橋由伸、二岡智宏、阿部慎之助のように本当に即主力として活躍してくれる魅力がある一方で、外れをひいてしまうともう延びしろのない、なんの魅力もない選手になってしまう。荒削りで未完成かもしれないが、その点高校出の選手には「化ける」という楽しみがある。しかし目先に捕われ、ジャイアンツはそういう手間すら放棄してしまったのである。
そして、今のスタメン、それなりの迫力と力はある。しかし問題はこれも以前触れたがほとんど全員が30代のベテランであり、来年もほほ確実に「1歳年をとった」彼らで戦わなければならないということなのである。おびやかすべき中堅は辛うじて矢野謙次に期待できるくらいか、鈴木尚広も来年30、もうベテランにくくらなければならなくなった。亀井義行も脇谷亮太も伸び悩んだまま、いずれにしても打撃に見るものがない選手が多すぎる。その点坂本、田中の両ルーキーは久々の希望の星ではあるのだが、さりとて来年、今の一軍に割って入るのは骨だろう、戦略なき補強のツケとしての惨憺たる現実がここにある。
その点、投手陣の方にはまだ希望がある。それでもストッパー上原浩治という切り札を切りながらも勝てなかった。来年、抑えは誰がやるのか、上原はもうノーサンキューだろう、だとしたら本当に誰がやるのか、豊田清の往時の力はなく、西村健太朗は安定感がない。林昌範、久保裕也はそもそも後ろで使っていたのがミスキャスト、上原と交代で内海哲也を思い切って配置転換するか・・・悩みは深い。これも先発完投型の投手ばかりを取り続けてきた補強のツケでもある。
要は苦しいのだ。特に野手陣の建て直しには相当な時間を有することは明白である。昨年誰かが「育成の巨人」をめざすと言っていた。その意気は了とするが、現実は厳しい。とにかく育成しようにもその素材がいないのだから・・・。
「失い続ける14年」と書いた、そう、残念ながらこれは過去形ではなく、現在進行形なのだ。今日の東京ドーム、どこのチームの本拠地なのだろうと思ったはのも筆者だけだろうか?チームの勢いの差かもしれないが、あの聖地東京ドームが圧倒的な阪神ファンの声援に包まれていた。その前の中日との首位決戦、関東地区では1、2戦に地上波での放送がなかった。ドームで日テレがお義理で中継する以外、ジャイアンツの試合が地上波に乗ることはほとんどなくなった。実は今日、13日の神宮でのヤクルト戦のチケットを友人にとってもらったのだが、今更とれるかと懐疑的だった友人はよりどりみどりのチケット残を見て愕然としたそうだ。相変わらず空席の目立つスタンド、優勝争いをしているにも関わらず、この現実なのである。
失ってしまったもっとも大事なもの、それはファンの支持であろう。ジャイアンツ離れを指摘する声はあっても潜在的ファンはまだまだ多いと筆者は信じていた。しかし、今年1年でジャイアンツファンというのは本当に減ってしまったのだと認めざるを得なくなってしまった。ゴリ押しでわがままを通す横暴さに心あるファンは離れ、それでも勝てない不甲斐なさにまたファンが離れ、弱いジャイアンツにはもうアンチすらいなくなってしまった。その上、地域密着型のチーム作りが時代の趨勢にも関わらずわざわざチーム名から「東京」を外す愚かさ、むろんかつての圧倒的一番人気の時代に戻ることは不可能だろうが、金城湯池だった北海道や九州でももはや見向きもされない存在に成り下がってしまった今、一体どこを向いて行くつもりなのだろうか。
チームの再建にも人気回復にも特効薬はない。まず野手の若手を取ってきて、育てること。荷が重いのは百も承知だが、坂本、田中両選手にかける期待は大きくならざるを得ない。投手と違い、毎日試合に出る野手に新しい顔を自前で育てない限り、再建の一歩はない。
それにこれは笑い話にとられるかもしれないが、思い切って東京ドームから撤退したらどうだろうか。そして本拠地を北関東、そう栃木の清原球場あたりに置く。更に地道な地方巡り、東北、北陸、四国、南九州そして沖縄、どさ周りと揶揄されようが、先人達もそうしてファンを開拓していったのだ。その遺産を食いつぶしてしまった以上、またやり直すしかない。確かにここ数年、それらしき戦略は見受けられなくもないが、その手の試合に限ってまた無様な試合が展開されるからいやになる。それでは逆効果以外の何者でもない。
何年かかってもいい、筆者は強い、相手に見下されないジャイアンツがまた見たい、そしてやっぱり日本一の人気チームであり続けて欲しい。自分ができることなどたかが知れてることは百も承知だが、その為の声援を惜しまないつもりでいる。なんだかんだ言ってたぶん、筆者は死ぬまでジャイアンツファンを止められないのだから・・・。
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