人情紙のごとし
長い人類の歴史の中でも、神や仏と並び称されたのは、恐らくこの人だけだろう。人呼んで「鉄腕」、来る日も来る日もチームの為に投げ続け、そして勝利するこの人を、いつしかファンはこうあがめたのだそうだ。
「神様、仏様、稲尾様。」
稲尾和久さん、享年70は奇しくもかつての西鉄ライオンズの同僚で先に亡くなった仰木彬さんと同じ、先月のCSでは元気に解説を務め、自身の記念館のオープニングセレモニーでも、あのトレードマークの柔和な笑顔を振りまいていたというのに・・・。
「ちょっと検査で入院するから。」
親しい人達にそう告げて病院に入ってわずか半月で鉄腕は帰らぬ人になってしまったという。
「僕の中で、西鉄ライオンズは今日で消滅しました。」
稲尾さんの突然の訃報に豊田泰光はこうコメントした。何者にも媚びず、強烈な自己への自信と信念に生きている硬骨漢豊田にここまで言わしめた稲尾さんの存在感の大きさ。稲尾さんの現役時代とは全く共生できず、西鉄ライオンズなどにはなんの感慨を持たない筆者も、あの見るからに心暖かな容姿と解説にもう触れることもできないのかと思うと、とてつもなく寂しくなる。心からご冥福をお祈りしたい。
現役通算276勝、タイトルも栄誉もある意味欲しいままにした稲尾さんだったが、その現役晩年は若い時の三原脩監督による酷使がたたり、悲惨だった。それでも稲尾さんは恨み言1つ言わずに、三原を恩人として徳とし続けた。無名だった自分を見出してくれた三原の眼力がなければ゛、今日の自分はないと言うのである。その恩人から頼むよと言われれば、どんなに疲れていても、稲尾は嬉々としてマウンドに上がり、そして見事にその期待に応えた。情とか恩義、義理というものが、まだ色濃く存在した時代だったのだろう。
稲尾さんの訃報とほぼ、時を同じくして今年、FA権を行使する9選手が確定した。黒田、和田、小林雅、石井一、新井、下柳、薮田・・・史上最高の面子と言っていい豪華なメンバーだが、筆者が驚いたのは福留孝介、福盛和男のFA宣言だった。
むろん、両選手とも取得した権利を正当に行使したに過ぎず、その意味で非難される筋合いは全くない。しかし筆者が首をかしげるのは、彼らが今年、シーズン半ばで戦列を離れ、いずれもアメリカで手術を受け、そのままシーズンを棒に振ってしまったからである。ケガはスポーツ選手に付き物である。しかし、その手術代、リハビリ費用は誰が負担しているかだ。本人ならいい、しかしこれは通常なら所属球団だ。当たり前と言われるかもしれないが、そして球団を離れる前提でのFA宣言、そこに心の痛みは少しもないのか。
福盛は楽天の守護神として3シーズン、フル回転した。しかし、横浜を出され、層の薄い楽天ならではのストッパー抜擢であった。期待に応えた本人が素晴らしいのは確かにしても、見出してもらったという恩義は感じないのか。
日本シリーズに勝ち、アジアチャンピオンにも輝いた中日だが、おもはゆい思いはぬぐえないのではないか。それはレギュラーシーズンではジャイアンツに敗れたという事実は消せないからだ。CSで優勝した時、落合監督は胴上げを拒否した。あの人一流の皮肉と嫌味を感じたが、それでも素直に舞えないという気持ちはあったのだろう。それでも、福留が後半戦健在だったら、どうだったろう。勝負事にたらればは不要とはよく聞くが、それにしても戦っていて、3番が井上一樹や中村紀洋だったことに胸をなでおろしたのは1度や2度ではなかったように思う。肝心な時に迷惑をかけたという後ろめたさはなかったのだろうか。ひいきチームが福留獲得に走り、筆者もファンとしてそれを望んでいるのに、福留の姿勢を批判するのはおかしいとは思うが、なにか違和感がぬぐえないのだ。
ここ数年のプロ野球選手の増長というか、傲慢ぶりには腹にすえかねるものを感じている。2004年に突如として起こった近鉄消滅から端を発した1リーグ構想は世間の総スカンを食い、それを声高に批判し、史上初のストライキまで打って戦った選手会の当時のトップ、古田敦也は一躍ヒーローとなった。
しかし、当時から筆者はおかしいと思ってきた。渡邊恒雄という人物のプロ野球界やジャイアンツに残した害毒は、それだけで万死に値すると思っている。彼が当時、非難の矢面に立たされたことになんの同情もする気はないが、選手会をヒーロー視するのはどう考えてもおかしい。ナベツネのゴリ押しでおいしい思いをしたのは、ジャイアンツを含む球団側ではなく、間違いなく選手である。FA成り金のような高額年俸の選手が続出し、それでプロ野球の人気が上がったかと言われれば、そんなこともない。収支バランスのあまりの崩れに球団、いや親会社が悲鳴を上げるのも仕方なかろう。
どんな企業でも、収支バランスがとれなくなれば、潰れるしかない。パリーグ発足以来の唯一の生え抜きであり、それを誇りにもしていたはずの近鉄があんなことを言い出したという事実はもっと重視していいはずだった。それなのに、選手はもちろん、世間も球団を放り出そうという企業側のみを叩いた。1度、球団を持った企業はどんなことがあっても、選手を守って奉仕し続けなければならないのか。買い手のない球団、その責任は選手にもあるのではないのか?
自分達にも反省する点はある、そんな殊勝な台詞を古田以下、当時の選手から聞いたこともなかった。自分達の年俸が不当に高過ぎるという意識は本当になかったのか?古田なんて奴はあの最後の2年間の現役選手としての醜態はなんだ、まさに月給泥棒の典型じゃないか、あんな奴が闘士としてもてはやされていた事実が腹だたしい。
ポスティングという制度はジャイアンツの反対を押し切って導入された、ある意味めずらしい制度だが、それがまたどうにもならない悪制度だから救いがない。FAでただで選手を持ってかれるくらいなら、その前に銭で叩き売っちまえという球団側のさもしい根性の賜物なのだが、これを使ってメジャーに行かせろと毎年ごねる奴が出るのもムカつく。
FAが選手の権利なら、ポスティングは球団側の権利である。そんな根本的なことも理解できない幼稚さ、こんな選手のわがままに、なぜか世間は寛大だから、球団もなかなか毅然とはねつけらけない。ヤクルト青木や日ハムのダルビッシュなんて確かに、残している成績は大したものだが、それでもプロ入りして2年や3年でもうメジャーに行かせろなんて、いくらなんでもなめすぎてないか!義理人情がすべていいものだとは思わない、しかし昨今のプロ野球選手の言動の嗜み、慎みのなさはあまりにひどい。
伝え聞くと福盛は治療代を弁済してから、チームを出る意向らしい。せめて、そのくらいのけじめはあってもいいだろう。意気に感じて、結果として選手生命を縮めてしまった稲尾さんの悲劇も切ないが、あまりにもドライな生き方もどうなのだろうか、プロ野球選手にだけ、そんなものを求めても可哀想、時代が違うんだよ、と言われてしまうと、言葉に詰まるが・・・。
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コメント
日ハムのダルビッシュなんて確かに、残している成績は大したものだが、それでもプロ入りして2年や3年でもうメジャーに行かせろなんて、いくらなんでもなめすぎてないか!
↑
って書いてますけど
ダルビッシュは一度もメジャーに行かせろなんて言った事はないですよ。
むしろジャンクスポーツのインタビューでメジャーに行くくらいなら野球をやめると言ってました。
ですので、ダルビッシュの部分は消してください。
投稿 KID | 2007年11月16日 (金) 04時02分