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2008年5月10日 (土)

そしてこちらが改訂版

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それから10年の月日が流れた、いろいろなことに悩みそしてさまざまことを乗り越えようとしていた訓練生達はそろそろ中堅として、各部署で責任あるポジションに着き始めていた。
 
真田志郎は第3ドックの責任者になっていた。そして今、彼は1隻の宇宙艦を前に半ば呆然と立ち尽くしていた。
 
(これは・・・ひどい。)
 
志郎は暗然と心の中でつぶやいていた。
 
(この艦が本来来るべきなのはここじゃない、解体工場だ。)
 
志郎がそう思わざるを得ない程、目の前の艦の損傷は激しかった。だが今の彼に与えられた指令はこのスクラップとも見まがう目の前の宇宙駆逐艦「ゆきかぜ」を3日後の出航に合わせて、戦えるように整備せよという、ほとんど無茶苦茶なものであった。
 
(たった3日でなにができるというのだ、魔法使いでもない限り、そんなことができるものか!)
 
西暦2199年、地球はガミラスが放つ遊星爆弾により地上を徹底的に破壊しつくされ、更に爆弾から放出される放射能による汚染を避けるべく、生物は地下に人工都市を作って移住せざるを得ないところまで追い詰められていた。
 
このままでは座して死を待つしかない、追い詰められた地球側は乾坤一擲、敵の基地があると目される冥王星で決戦を挑むべく、その準備を進めていた。
 
虎の子とも言える地球防衛艦隊に出撃命令が下されたが、その実態は「日本残存艦隊」と言って差し支えなかった。敵の強力兵器の前に、地球艦隊は次々と撃滅され、結局は幾多の軍事大国ではなく人類で唯一の被爆体験を持つ民族である日本が一番健闘しているという皮肉な現実がそこにあった。沖田十三司令官以下、出撃 するクル−達の戦意は尚、盛んではあったが、実際には数合わせの為に、こんなことまでしなくてはもう、艦隊の態を為さないほどの状況だったのである。
 
(正直、もう勝ち目はない。これ以上の抗戦は人類にとって自殺行為でしかない。)
 
冷徹な科学者としての判断が、現実から目を背けることを許さない。志郎はエレベ−タ-で駆け上って、そう上層部に訴えたい心境に駆られていた。だが・・・
 
(俺にはやはり言えない。俺だって宇宙戦士の端くれ、命ある以上、降伏なんか絶対したくない。)
 
戦士と科学者の狭間で、志郎は苦悩していた。
 
(俺はやはり、この艦の出撃を黙って見守るしかないのか・・・しかし、そうなったら・・・。)
 
そんな志郎の心境とはあまりにもかけ離れた快活な声がドックに響いたのはその直後だった。
 
「どうだ、戦えるようになったか。」
 
振り向いた志郎は思わず顔を歪める、そこに見たのは懐かしい友の姿だと言うのに・・・。
 
「あ、ああ・・・。」
 
言葉を濁す志郎の心境にお構いなしに、古代守は大股で近付いてきた。
 
「そうか、3日後には出撃だ、冥王星戦線だ。ここで負けたら地球はもう後がない。」
 
「・・・。」
 
志郎には、ほとんど手の施し様がないとしか思えないこの艦の艦長は皮肉にも守その人だった。
 
(俺は1番の親友と信じているこの男を死地に送り出そうとしている。それが本当に正しいことなのか・・・。)
 
幾多の激戦の結果、あの訓練学校での最後の夜に永遠の友情とたゆまぬ努力を誓い合った4人の仲間のうちの1人、星野健は既に戦死を遂げてしまっていた。星野だけではない、多くの同期生もまた、尊い命を落としている、だがその死は報われてると言えるのか・・・。
 
「古代。」
 
たまりかねて、呼びかけた志郎の心中など知らぬ気に守は続ける。
 
「これから沖田司令官を囲んで作戦の打ち合わせだ、せっかく久しぶりに会えたのに、ゆっくり話もできなくて残念だが、帰って来たら、心置きなく飲もう。じゃあな。」
 
いつもと変わらぬ様子で、そう言って志郎の肩をポンと叩いた守は足早に部屋を後にした。
 
(古代!)
 
志郎はたまらなくなって駆け出そうとした、守を追いかけようと思ったのだ。
 
(古代、行くな!行ったらお前はもう絶対に生きては帰ってこられん!)
 
そう叫びたかった、しかし結局は追い掛けることも、叫ぶことも志郎にはできなかった。
 
(俺は・・・俺にはなにもできないのか・・・。)
 
志郎はただ立ち尽くすだけだった。
 
 
そんな志郎に背を向けて歩き出した守からは、志郎に見せていた精悍で明るい表情がみるみる消えて行った。そしてふと扉の外で待っていた人物に気がついて、足を止めた。
 
「来てたのか、副長。」
 
副長と呼びかけられて、黙ってうなづいたのは西本未来であった。そんな彼女になんで入ってこなかったんだ、などと無粋なことは、守は言わない。
 
卒業して10年、10年も経つというのに志郎と未来はその心中にある相手への想いを未だに、告げられずにいた。2人の気持ちにとうに気付いている守は自らの未来への淡い想いは振り捨て、その行方を見守っていたのだが、2人の仲は一向になんの進展も見せないまま、今日を迎えてしまっていた。
 
なにをクズクズしてやがる、傍で守は苛立ち、やきもきしていたのだが、こればかりはどうしようもない。1人は内に、1人は外にと、ただでさえ、会う機会も少なかった上に、優秀な2人は徐々に多忙となって行き、そのポジションもどんどん重くなって行き、そうこうしているうちに、ガミラスの騒動が起こり、いよいよ それどころではなくなってしまったのである。
 
そして今、守と未来が、同期生でありながら同じ宇宙艦で艦長と副長としてコンビを組む事態になっていた。同期生のコンビも異例なら、30歳にも満たない2人がそんなポジションにつくのも異例、更に言えば志郎のドック責任者も抜擢と言える。彼らの優秀さを物語っているとも言えるが、深刻な人材払底の結果とも言えた 。
 
それはともかく、久しぶりに遭遇した志郎の前に姿を見せるのを躊躇する未来の複雑な女心に守も胸をつかれる。
 
「西本。」
 
上官である守にそう呼びかけられて、未来は軽く姿勢を正した。
 
「君は・・・このままゆきかぜを降りろ。」
 
「なんですって!」
 
あまりにも意外な守の一言に未来は愕然と彼を見た。
 
「なんで急にそんなことを言い出すの?」
 
詰め寄る未来に守は言う。
 
「今の真田の顔を見なかったのか?」
 
「えっ?」
 
「すまん、この艦はもう地球には帰って来られない、真田の顔にはそう書いてあった。」
 
「古代君・・・。」
 
ゆきかぜに乗り組んでからは意識して、守のことを「艦長」で呼んできた未来だったが、今は思わずそう呼びかけてしまっていた。
 
「俺はこの艦の艦長だ、あいつに言われるまでもない、この艦のことは誰よりもわかっている。そんな艦に君を乗せるわけにはいかない。」
 
「どういうことよ、わからない、ちゃんと説明してよ。」
 
怒りすら見せて抗議する未来に、守は続けた。
 
「なにもみんなでそんなに死に急ぐことはないだろう。今度の戦いでは飛行機乗りとしての君の出番はまずない、我らが誇るエースパイロットをそんなところでむざむざと死なせるわけにはいかない。君にはまだ出番がある、それを待つんだ。」
 
そんな守の言葉に、未来はかぶりを振る。
 
「嫌よ、私は絶対に嫌!こんな時、あなただけを行かせて残るなんて、私には絶対にできない。私はゆきかぜの副長よ、肝心な時に外されて、なにが副長よ!」
 
「西本。」
 
興奮気味の未来を落ち着かせるかのように、守は優しく呼びかけるとこう言った。
 
「君は真田に親友だけでなく、慕い人まで見殺しにしたという負い目を背負わせて、これから1人で生きて行かせるつもりなのか。」
 
「えっ・・・。」
 
未来は呆然と守を見る。そんな未来に一瞬、微笑して見せた守はすぐに表情を引き締めると言った。
 
「副長、最後の命令を下す。ゆきかぜ女子乗組員を召集して、こう伝えてくれ。『艦長の古代が女は足手まといだから出て行けと言っている』とな。」
 
「艦長・・・。」
 
突然の守の言い草に、戸惑う未来。
 
「すまん、あとに残る方がつらいかもしれん。だけど、まずは俺達に任せてくれ。一生に一度くらい、男を立ててくれたって、バチはあたらんだろ。」
 
そう言うと守は未来にクルリと背を向けた。
 
「古代君!」
 
「あとを頼んだぞ、西本。幸せになってくれよ・・・未来。」
 
振り返りもせずそう言い残すと守は走り去った。
 
(古代君・・・。)
 
未来はそんな守の後ろ姿を言葉もなく、見送るしかなかった。
 
 
                      [エピロ−グ]
 
 
 
そして・・・更に時は流れた。西暦2202年の晩夏、真田は1人、守の墓前にいる。
 
今の真田を包んでいるのは、切ないほどの孤独感であった。星野健はとうに亡く、古代守も数奇な運命に翻弄されるかのように、その短い人生を閉じてしまった。そして西本未来は・・・?
 
守と未来の最後の別れのドラマを真田は全く知らない。冥王星決戦が地球側の惨敗に終わり、辛うじて生還した沖田司令官を艦長に迎えた「宇宙戦艦ヤマト」という新造艦が、人類の最後の希望を託され、12万8千光年という途方もない航海に出ることを知ったとき、未来は敢然と乗り組みを志願した。
 
ヤマトには、これまで地上勤務一筋だった志郎が、技師長として乗り組むことが内定していると聞いていた。人類の、いや地球上の全生物の命運が、かかったこの航海に、志郎と共に挑みたい、未来の意志は固かった。
 
だが、その彼女の思いは遂げられることはなかった。発表された乗組員の顔ぶれは志郎や沖田艦長の長年の片腕的存在だった徳川彦佐衛門といった少数の例外を除いては、未来の目から見れば、まるでヒヨッコのような若者達ばかりであった。沖田の希望ということだったが、女子乗組員として選抜されたのが森雪を始めとし た、自分より遥かに若い少女達であったのを見た未来は、その隠された人選意図を悟って、失意のうちに姿を消し、その行方は、その後も遥として、知れないままであった。そして、奇跡的に1度は戻ってきた守も、未来のその後を聞くと、彼女に関しては一切なにも、志郎に語らぬまま、亡くなってしまった。
 
 
「古代・・・本当にご苦労だったな、お前はいつも俺達のトップランナ−だった。だけど、もういいぞ、もうゆっくり休んでくれ。正直に言う、俺は寂しい。だけど俺は生きるぞ、俺は命というものの尊さをお前に、お前達に教えてもらったんだ。だから、俺はこれからも精一杯生きる、お前達の分まで。見ていてくれ、古代 。」
 
懸命に祈り、そして語りかけていた真田だったが、ふと、いつのまにか、そんな自分をそっと見つめている人影に気付いた。
 
「古代・・・。」
 
それはむろん、今まで彼が語りかけていた守ではなく、進とその婚約者である雪であった。彼らも、戦死した兄を墓前に弔おうとやって来たのだが、真田のあまりの真剣な姿に声もかけかね、しばし立ち尽くしていたのであった。
 
「やぁ。」
 
「来てくださってたんですか、ありがとうございます。」
 
「一足先に、参らせてもらったよ。」
 
そう言うと真田は微笑した。
 
真田はこの親友の弟を、本当の弟のように思ってきた。そしてその恋人である雪にも同じような感情を抱いていた。まだ若い2人になんでこんな過酷な運命が次々と振りかかってくるのだろうと真田は思う。そしてついに今回、天はこんな2人を引き裂くことまでやってのけた。そんな試練を2人は懸命に乗り越えてきた。
 
そして今、自分の前に寄り添って現れた進と雪が、真田にたまらなく愛しかった。こんな健気な恋人達を絶対に不幸にはしない、彼らを守る為なら、今、友に誓った精一杯の自分の生を振り捨ててもいい。
 
(生きていたら、古代だってきっと同じことを考えただろう。それが生き残った俺の使命だ。)
 
真田は改めて、そう思っていた。
 
 
墓前を進と雪に明け渡し、真田は歩き出した。駐車場に向かおうと、階段を踏み出した真田は、思わず足を止めた。
 
(なんて素晴らしい眺めなんだ。)
 
今更ながら、その美しい光景が目に入ってきて、真田はしばし、その景色をじっと眺めていた。そして、どのくらいの時が経ったか、ようやくまた歩き出した真田の足は、だが、数歩もしないうちに再び、止まった。
 
(すると、あの花は一体、誰が・・・。)
 
真田が参った時、守の墓前には既に花が手向けられていた。当然、進達だろうと、真田は思っていたのだが、彼らは後からやって来た・・・。
 
 
じっと思いを馳せる真田の前に広がる空と海は、あくまで青く、そして美しかった。
 
 
 
                             [完]   
 
 
 
 

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