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2008年5月10日 (土)

突然ですが・・・

 全く唐突なのだが、私の書いた「宇宙戦艦ヤマト」の二次小説なんぞをアップさせていただくことにしました。
 
これは、以前このブログでも触れさせていただいた「あいさん」という管理人さんが運営する「古代君と雪のページ」というサイトに投稿したものだが、諸処の事情により、そちらのサイトでの掲載を断念したものです。
 
一旦はそのまま、お蔵入りにしようと考えたのだが、せっかく書いたのだからと、公開したくなってしまい、ただ、他に取り扱っていただける当てもなく、結局ここでアップせざるを得ないという結論に達したわけです。ただ、そういうことをする為に始めたブログではないので、我ながら大いに違和感は感じてはおりますの で、今回限りのつもりです。
 
この作品は「ヤマトよ永遠に」という映画の後日談的なものからスタートし、古代守と真田志郎の青春の1ページを勝手に綴ったものです。西本未来と星野健というのは当方のオリジナルキャラですが、冒頭の真田が古代の墓前に参るというシーンは、古代家の墓地が兄弟の生まれ故郷である三浦半島の絶景の地にあるという あいさんの作品のオリジナルの設定をパクらせていただいた。
 
他にもそう言ったものがあるにも関わらず、今回、あいさんにはここでの掲載を快く了解していただいた。心の広い対応に感謝申し上げます。
 
また当然ではありますが、「宇宙戦艦ヤマト」の一連のシリーズに拠って書いた作品であることもお断りさせていただきます。
 
 
この作品は第六章に最初に書いたバージョンと手直ししたバージョンの2つがあり、あえて並べてアップさせていただく。どちらがいいかなんて感想がいただけたりしたら、望外の喜びです。
 
ヤマトに興味のない方には、なんやねんということになるし、あってもあまりの駄文の気分を害する方もいらっしゃるでしょうが、あまり気になさらないよう、お願いします。
 
 
 
 
 
                     「さらば青春の時〜友へのレクイエム」
 
 
                           [プロローグ]
           
 
その日、墓標の後ろに広がる空と海は、青く美しかった。だが、今の真田にはそんな光景は少しも目に入らなかった。
 
「俺達が苦心惨憺してたどりついたイスカンダルに、お前がいたのを見た時、俺はお前は絶対に死なないんじゃないかと思った。すさまじいばかりの生命力・・・、俺は感嘆したよ。次に会った時は、愛する人を失い、意気消沈するお前に、俺は掛ける言葉もなかったが、それでもお前は生きて戻って来た。そんなお前がとう とう・・・。」
 
まるで生ける者に語りかけるかのようだった真田の言葉が一瞬途切れた。
 
「お前の悪運も尽きたということか・・・それにしてもなんでこんなに早く逝きやがった、1人で逝くならまだしも、サーシャまで連れて行っちまいやがって・・・。」
 
目に光るものが浮かんで来るのを、冷静沈着を絵に描いたような真田もどうすることもできなかった・・・。
 
 
                       [1]
 
 
真田志郎と古代守が出会ったのは、今からもう15年以上も前のことになる。2人はまだ、中学を卒業したばかりの紅顔の美少年(?)で、呉市の沖合い、広島湾に浮かぶ江田島という小島にある宇宙戦士訓練学校が、その出会いの場であった。
 
義務教育を終えたばかりの2人が、志願してやって来たこの地はかつて、何世紀も前に旧日本海軍の養成所が置かれていた所である。風光明媚だが、周りに娯楽施設もなく、戦士の養成には最適とされた当時の面影をほとんど保っていたことは、この科学万能の現代では奇跡とも言ってよかった。ただ、かつてと違っていたの は、当時では全く考えられなかった女子訓練生の姿もそこにあることだった。志郎と守はそんな土地で3年間の課程を過ごす為に、親元を離れて、ここにやって来たのである。
 
ガミラスと名乗る侵略者が問答無用とばかりに、遊星爆弾なる悪魔のような兵器で無差別攻撃を仕掛けてくるには、まだ数年の時がある。当時の訓練学校は周りの環境もあいまってのんびりしたものだったが、とは言っても、そこはやはり軍人を養成する学校であり、普通の学校にはない厳しさも漂うことはやむを得ないこと であった。
 
後に、守の弟である古代進に志郎自らが語ったように、全く正反対の性格でありながら、志郎と守は不思議とウマがあった。明朗快活、成績優秀で女子の憧れの的でもあった守と周囲とあまり交わろうとせず、暇さえあれば自分の研究室にこもっているような地味、というより根暗な志郎の仲の良さは同期生の間でも七不思議 の1つに数えられていたが、当人達はそんな周りの視線など、全く気にすることもなく、学校生活を自分達なりに謳歌していたのである。
 
 
古代守はいつも人の輪の中心にいた。年上も年下もなく、男も女もなく、彼の周りには常に誰かがたむろしていた.。まるで磁石が砂鉄を引き寄せるかのような、そんな人間的魅力が守にはあるようだった。この日も課程を終えて、生徒舎に戻る道すがら、守はもう数人の同期生を引き連れていた。
 
「いよいよだなぁ。」
 
その中の1人がポツンとつぶやいた。
 
「ああ、いよいよだ。」
 
別の1人が応じる。3月は今も昔も卒業、別れの季節である。守達日本宇宙戦士訓練学校第12期生も3年間の課程を終え、いよいよ卒業の時期を迎えようとしていた。そんな彼らを最後に待ちうけているのが「卒業航海」であった。それは、指導教官の指揮の下、実際の宇宙艦に乗り、様々な想定、課題を克服しながら火星まで 航海を行う、文字通りの「最終試験」であり、ここで不適と判断された者は卒業を許可されずに、留年、あるいは退学を余儀なくされる、全く情や個人的思惑など入りこむ余地もないシビアなジャッジメントが待ち構えていた。
 
「俺達みたいな劣等生には酷だよな、ここまで来てお前はダメって言われるんじゃ、たまらねぇよ。」
 
「その点、古代はな、なんの心配もない。クラスヘッドは既に確定、あとは前途洋々たる日々が待ってるんだからな、羨ましい限りだよ。」
 
勝手なことを言っている仲間達の言葉を守はただ、ニコニコしながら聞いている。その笑顔に女だけではなく、男も惚れてしまうらしい。
 
「ただな、星野の執念はすげぇぞ、最後に一矢報いようと最近は、授業が終わった後も訓練室に閉じこもりっぱなしだからな。」
 
1人が言う。星野とは星野健、守と同じ砲術科の生徒である。入学以来、守とは激しくクラスヘッド(首席)の座を争い続けてきた。しかし、軍配は常に守に上がり続けたまま、3年間が過ぎようとしている。
 
「星野の立場からすれば当然だろう、それに別に俺にとってはどうでもいいことだよ。学校の成績上げたくて、訓練学校に入ったわけじゃないからな、地球の平和を守る為に、俺は訓練学校に入ったんだ。」
 
ようやく口を開いた守はそう言い切った。一同が言葉を失っていると、守はニヤッと笑って続けた。
 
「とカッコつけたいところだが、俺にだって欲はある。ここまで来たら最後までトップの座は誰にも渡したくないよ。」
 
そう言うと守は笑い声を上げる、連られたように周りの連中も笑い出す。
 
「だが、申し訳ないが、今更星野に負ける気はしない。俺が恐いのはあいつが本気になった時だけさ。」
 
「あいつって誰のことだ?」
 
1人が不思議そうな声を出す、傍から見る限り宿命のライパルともいうべき星野以外に守の牙城を崩せそうな人間がいるようには思えなかった。
 
「まさか、西本のことじゃないだろうな。」
 
1人が茶化したような声を上げるとまた輪の中から笑いが起こる。
 
「西本女史か、確かにそれは強敵だな。」
 
守も笑いながらそう応じた時だ。
 
「随分ご挨拶な言い方ね、古代君。」
 
なんとも棘のある声が横合いから飛んできた。
 
「西本・・・さん。」
 
その声の方向に当の西本未来の姿を見た守は思わず立ち止まる。
 
未来と書いて「みく」と読む、ちなみに星野は健と書いて「たけし」である、まぁどうでもいいことだが・・・。西本未来は飛行科の訓練生、つまりパイロットの卵である。その腕前は実質飛行科のトップと言われている。戦場の女性=白衣の天使という時代はとうに過ぎたとは言え、12期生の内訳を見ても、女子訓練生がも っとも多いのは医師を含めた看護科であることは否めない事実であり、西本未来も実は看護科の生徒としてこの訓練学校の門をくぐったのだ。ところが
 
「看護なんて女子一生の職業ではない。」
 
というすさまじい「名言」を残して、強引に飛行科に転向したのが、入学後わずか3ヶ月、以来未来の存在は常に波乱の目であった。
 
未来には訓練学校のなにもかもが気にいらなかった。死語となったはずの「男尊女卑」という言葉がここには脈々と生きているとしか思えなかったからだ。その象徴とも言えるのが「男女別管理」である。別に寄宿舎が男女別になっていることを怒っているわけではない、ここでは成績が男女で別管理になっているのだ。
 
信じられない、未来は思った。砲術科、飛行科、航海科、看護科、機関科、通信科・・・科によって学ぶことはすべて同じではないが、成績は科に関係なく、すべて統一した順位がつけられる。ところがその順位は男子は男子、女子は女子だけで別管理され、全くリンクしていないのだ。理由を尋ねた未来はその回答にあきれ 果てた。
 
「男女には体力差がある。」
 
というのである。バカじゃないか、未来は本気でそう思った、どうやら「戦争は男の領分」とでも言いたいようだった。旧自衛隊時代から、こんなことが行われていたのだろうか?スポ−ツはもちろん、将棋や囲碁といった古い伝統文化でさえ、男女が同じ土俵で競うのが当然になった時代に何を寝言のようなことを言ってい るのだろうか。今まで過去11期の先輩達はこんな単純な疑問すら持たなかったのか、以来、未来の戦いが始まった。
 
未来の要求はただ1つ、生徒全員の成績管理を一元化すること、それだけであった。男女別に管理する理由などなにもない、未来からすればごく当然としか思えない要求が全く通らない。
 
校長の藤堂平九郎はこれまで日本防衛軍の要職を歴任、将来はそのトップに座ると目されている人物である。そんな人物だけに自分の声を無視することはできない、未来はそう読んでいたのだが、当ては外れ、藤堂は全く反応を示して来なかった。一説には藤堂本人は未来の訴えを取り上げようとしたのだが、周囲の反対が強 くて身動きがとれないのだという、どちらにしても大した人物ではない、未来は失望していた。
 
更に未来が解せないのは同じ女子訓練生の中でも未来の動きを冷ややかに見ている面々がいることだった。
 
「君達には向上心がないの。」
 
未来はそう面罵したこともあったが、彼女達の反応は変わらない。未来は自分が正しいと信じている、いや確かに間違ってはいなかったろう。しかし人間は理屈だけで動くものではない、いい悪いは別にして、人間には感情というものがあり、その感情が人間の行動を大きく左右することは動かし難い事実である。自分達の選 んだ道を馬鹿にされた看護科の生徒達がどんな感情を未来に抱いているか、想像に難くないことだったが、夢中の未来にはそれがわからない。
 
熱烈な支持者がいる一方で、ひょっとしたらそれ以上の悪意に満ちた視線の中に未来はいる。しかし、未来はひるまない、だが時間は無情にも過ぎていく。
 
そして未来は今、焦燥の中にもいる。結局自分の3年間はなんだったのか、徒労感に折れそうな心を懸命に奮い立たせながら未来は守の前に立った。
 
「君のトップなんてなんの意味もないわ、私達との競争から逃げ続けて、首席が聞いて呆れるわ。」
 
未来の挑発的な言葉に、むしろ色を為したのは周りの連中だったが、守は穏やかに応じた。
 
「別に逃げてるつもりはないさ。それに学校の成績だけが、俺達のすべてじゃあるまい。」
 
「ご立派なお言葉ね、だけど本当にそう思っているならどうして君からも男女別管理を止めるべきだって声が上がってこないのかしら。結局は女に負けるのは恥だなんて言うくだらない男のプライドでしょ。」
 
「じゃぁ、そういうことにしておいてくれ、それでいいじゃないか。」
 
そう言い捨てると守は足早に歩き出した。にらみつけるような未来の視線を背中に感じながら、守はその場を後にした。
 
 
                      [2]
 
 
その後、仲間と別れて守は1人トレーニングル−ムに向かった。やりきれなかった、人に太陽を思わせるように朗らかで陽気な守が、西本未来と接することはなんとも、やりきれなかった。志を遂げられないまま、卒業の時を迎えようとしている未来がその憤懣を自分に向けてくるのはある意味、仕方ないのかもしれない。し かし、あそこまでの敵意を自分にぶつけてくる人間に守は今まで会ったことがなかった。
 
(あの娘も決して最初からあんなじゃなかった。)
 
3年前、入学式後のオリエンテーションでたまたま隣り合わせたのが、看護科の新入生西本未来だった。当時の未来はむしろ愛らしく、よく笑う少女だった。そんな未来に守は心のときめきを感じたくらいだったのに・・・。
 
(俺が西本にしてやれること、いや、してやるべきことはやっぱりあったんだろう、だが俺には結局・・・。)
 
そんなことを考えながら、トレーニングル−ムの扉を開けた守は足を止めた。目に飛び込んで来た光景は1人の男が一心不乱に訓練に励む姿だった。
 
(星野・・・。)
 
友人が言っていた通り、星野健だった。まさに鬼気迫る表情で射撃訓練を行っているその姿を守が半ば呆然と見守っていると、やがてフィニッシュ音が室内に鳴り響き、星野は立ち止まって汗をぬぐった。
 
傍らのドリンクを一飲みして、扉に向かって歩き出した星野はそこでようやく自分を見つめている男の存在に気付いた。
 
「お前もトレーニングか。」
 
その声音には冷たい響きがあった。
 
「・・・。」
 
「さすがだな、だが今度ばかりはお前に負けるわけにはいかん、必ず勝つ。俺はお前の噛ませ犬のままで終わりたくはない。」
 
守を一瞥するとそう言い残して星野は部屋を去った。
 
(星野、お前に俺が何をしたって言うんだ。)
 
またやりきれない思いが守を包んでいた。
 
 
結局、トレーニングをやる気もなくし、めずらしく誰も寄せ付けずに夕食をとった守はしばらく1人考え込んでいたが、やがてなにかを思い立ったように立ちあがった。
 
(あいつの顔でも見に行くか。)
 
その男はまるで存在感がなかった。いるのか、いないのか気にしている人間もあまりいないようだった。しかし守はいつもその男のことを気にかけていた。その性格から多くの友人を持ち、多くの後輩から慕われている守だったが、真に心を開くことのできる「親友」はその男しかいないと思っていた。そして、その男は授業 中以外、ほとんどそこにいた。いつ寝てるのかと思うくらいだった。彼に会いたければ、彼のホームグランドともいうべき彼の研究室に行けばよかった。
 
「入るぞ。」
 
ほとんどの人間がその男のことを偏屈な変人だと誤解していた。進んで人付き合いをする気がない男だけにそう思われるのも仕方なかったのだろうが、守が彼を訪ねると、彼はどんなに忙しそうにしていても、その手を止めて、暖かな微笑で迎えてくれる。
 
「よぅ。」
 
多くの人間を和ませる不思議な魅力を持った守の心を逆に癒してくれる存在は数多いと噂されるガールフレンドの面々ではなく、真田志郎という不思議な雰囲気をもったこの科学科の生徒だった。
 
「相変わらずやってるな、一体いつ飯食ってるんだ、お前?」
 
「ちゃんと食ってるさ、ただもう時間がないんでな。ここを使えるのもあとわずか、それそろ引越しの準備もしなけりゃならん。」
 
なんの研究をずっと志郎が続けているのかは守も知らない。いや一度尋ねてみたことはあり、志郎の方も懇切丁寧に説明してくれたのだが、残念ながら守には、ちんぷんかんぷんで、以来その話題が2人の間に上ることはなくなった。
 
「どうした、どうやらまた、西本さんとやりあったらしいな。」
 
「ここに閉じこもってるくせになんで知ってるんだ?本当に不思議な奴だ。」
 
「別に誰かから聞いたわけじゃないさ、お前の顔にそう書いてある。」
 
志郎はこともなげにそう言った。
 
「お前も案外純情な奴だな、かつての恋人との対立を気に病んで悩んでるとはな。」
 
「冗談じゃない、別に俺達はそんな仲だったわけじゃない。だいたい、あいつのことは、確かに最初は可愛いと思ったが、今はそんな感情はかけらもないよ。」
 
「彼女にこだわらなくても、女には不自由しないってか?ま、羨ましい話だ。」
 
「馬鹿なことを言うな。」
 
「ハハハ・・・。」
 
志郎がこんな軽口を叩く男だと知っているのは、少なくともこの訓練学校内では守1人だったろう。
 
「真田。」
 
だが守の表情はいつになく真剣だった。
 
「なぁ、訓練学校ってなんだ?そこでの成績ってそんなに大事なものか、俺達の一生を決定付けるくらいに。ここは成績を競って、相手を蹴落とすことだけを考える場所じゃないはずだ。だけど、西本も星野もまるで仇敵のように俺に挑みかかってくる。俺がクラスヘッドだからか、冗談じゃないよ。」
 
志郎はそんな守の訴えるような言葉を黙って聞いている。
 
「俺はもういやだ、そんなにクラスヘッドの座が欲しければお前達にくれてやる、そう言ってやりたいよ。だけど・・・言えない。」
 
「古代・・・。」
 
「手を抜いて、あいつらに負けたとして、それはあいつらへの侮辱になる。いや・・・正直言えば、俺だってやっぱりあいつらに負けたくない。俺も結局成績に追われてるだけなんだ、俺が2番だったら、きっと目ひんむいて1番の奴に挑みかかってるんだろう。俺はなんの為に、訓練学校に入ったんだ。」
 
じっと自分を見つめている守を志郎も見つめていたが、やがて立ち上がった。
 
「優しいんだな、お前。」
 
「真田・・・。」
 
「でも古代、お前いくつなんだ?」
 
「えっ?」
 
「人間には競争心理っていうものがある。あいつに負けたくない、そういう気持ちを抱くのは当たり前だと思うけどな。その気持ちを抑えよう、よくないことだなんて感じるとは、お前、仙人にでもなりたいのか。」
 
「お前にもあるのか。」
 
「もちろんあるさ。だが俺の場合、悲しいかな、お前達と競うだけの能力がない、それだけのことだよ。」
 
そういうと志郎は静かに笑った。
 
「どちらにしても持てる者の贅沢な悩みだぜ、古代。俺なんか、卒業航海をどうやって乗り切るかで今は頭が一杯だよ、俺もこのままここに閉じこもったままでは終わりたくないからな。」
 
「真田・・・。」
 
「さすがに俺も疲れた。今日はもう、寝るとするか、さぁ戻ろうぜ。」
 
「・・・。」
 
なにか言いたげな守を振り切るかのように、志郎は出口に向かった。
 
 
                      [3]
   
 
翌日、未来はグランドの一角に立っていた。目の前で繰り広げられているのは男子訓練生がサッカーに、女子訓練生がバレーボールに興じる、昔から、男女共学校ではごくありふれた体育の授業風景だった。宇宙戦士訓練学校と言っても一年中、戦争の勉強をしているわけではない、一般の高校と変わらない授業も当然ある。
 
(みんな楽しそうだな・・・。)
 
未来は思う。縁あって全国からここに集まってきた同期生達、3年間一緒に過ごした仲間だという感慨は未来にもある。そしてそんな彼らともうすぐ、別れるのだという寂しさもまた感じていた。ここは確かに戦士を育成する特別な場所ではあるが、また「学校」であることも間違いない。未来だって多くの仲間達と有意義な 学園生活を送ろうと胸弾ませて、この地にやって来たのである。
 
なのに、その期待の地はあまりにも未来の想像とは違っていた。それまで未来は両親に愛され、すくすくと育ってきた、女の子に生まれたことに特別になにかを感じることもなかった。むしろ男子よりも、さまざまな可能性が広がっているような気がして、未来は自分が女であることが嬉しかった。にも関わらず、そんな思い はこの訓練学校で打ち砕かれてしまった。
 
例えば今、目の前に繰り広げられている光景、男女が別々の競技に興じていることが悪いとは未来も思わない。男女の体力差、腕力差というものが、存在するのは事実である。だが、「区別」と「差別」は全然違う、女であるという理由だけで、同じ土俵に立たせないなんて理不尽なことが許されるはずがないのだ。
 
さきほど未来のことを事実上の飛行科のトップと書いた。「事実上の」と入れられなければならないことが未来は納得できない。飛行科の「トップ」は男子のトップのことであり、未来はあくまで数少ない女子の中のダントツのトップ、それだけに過ぎない。その男子の「トップ」とやらが自分より優れた技能の持ち主なら、 まだ未来も諦めがつく。だがその男の技量はお世辞にも自分に勝っているとは思えなかった。なのに自分は女だから、男じゃないから比較の対象にすら、ならないのある。
 
こんな馬鹿げたことが今のご時世に堂々とまかり通っていることが未来には許せない。そういう声を上げたら、いつの間にか未来は異端児にされてしまった。あまりの風当たりの強さに未来も人知れず涙を流したこともある。しかし、自分は絶対に間違っていないという信念で未来は踏ん張ってきた。
 
「西本さん、交代よ。」
 
友人から声がかかる。未来はうなづいてコートの中に入った。西本さん、彼女は級友達からそう呼ばれていた、いやそう呼ばせていた。未来、なんて少女らしい呼びかけられ方は断固拒否した。男子が西本、なんて呼び捨てにしてくると断然噛みついた。
 
「別に君達を呼び捨てにするつもりはないげど、私も呼び捨てにされる筋合いはないわ。ちゃんと『西本さん』って呼びなさいよ。」
 
我ながら可愛げのない娘だとは思うが、そういうところから意識を変えさせないとここはダメだとまで思い詰めていた。
 
未来の考えを支持し、応援してくれる仲間は一杯いる。しかし、どうやらドンキホーテのままで終わってしまうらしい、こんな世界に今後身を置いても意味はなさそうだ、このまま卒業しても任官は拒否し、大学に入って別の道を歩もうかとも思う。しかし、それでは結局尻尾を巻いて逃げ出したのと等しい。それも未来は悔 しい。
 
この3年間で、未来がなにに失望したと言って、女子全員の賛同が得られなかったのはもちろんだが、男性の側から未来の言っていることはもっともだという声を全くと言っていいほど聞かなかったことだった。校長は知らん顔、男子教官はこの跳ねっ返り者といった白い目を向けるばかり。生徒達もあんなのと関わり合いに なるのは御免とばかりにほとんど近付いて来る者もいなかった。
 
未来にそれらしきエールを贈ってくれたのは2人しかいなかった、その中の1人はいつだったか、たまたま近くに来たからと仲間と一緒に訓練学校に顔を出した何年か先輩のOBだった。そして、わざわざ一面識もない自分を訪ねて来ると、こんな話をしてくれた。
 
 
「モノの本で読んだ知識だけどな、昔の日本海軍では俺達機関士は『釜焚き』と呼ばれて、バカにされて給料、昇進から戦死後の処遇まで、なにからなにまで差別されていたんだ。なぜだかわかるか?」
 
「わかりません。」
 
「理由なんてないんだよ、ただ昔からそうだった、それだけのことだったらしい。」
 
「・・・。」
 
「機関士達はその差別をなくそうと随分運動したらしいが、なかなかなくならなかった。その声がようやく認められそうになった時、皮肉にも日本は戦争に負けて、海軍そのものがなくなってしまった。」
 
「・・・。」
 
「馬鹿げた話だが、歴史の真実だよ。まぁ君も大変だろうけど、頑張れ。力にはなってやれそうもないが、陰ながら応援しているよ。」
 
 
山崎奨と名乗るそのいかにも無骨そうな先輩は、そう言って未来の肩をポンと1つ叩くと立ち去って行った。
 
(あの先輩の言葉は嬉しかった、でも力、ここに及ばずか・・・。)
 
未来はまたコートの外に出ると、男子のサッカーに目をやった。グランド内はいつも通り古代守の1人舞台になっているようだった。
 
(古代君・・・。)
 
守を見る未来の気持ちは複雑だ。誰一人知り合いも居ず、期待と不安の中でスタートした学校生活の中で1番最初に親しく言葉を交わした相手が守であったことは、未来も忘れてはいない。その時、未来もまた、守に好意を持ったのだが、その後2人の距離は離れる一方だった。
 
自分が声を上げた時、ひょっとしたら守は応援してくれるかもしれない、未来はなんとなくそう思った。だが、それは未来の思い過ごしに過ぎず、たまに交わす会話は昨日のように刺々しくなるばかりだった、決してそんな関係になることを望んでいたわけではないのに・・・。
 
(とうとう古代君も君と一度真剣に勝負したかったとはお世辞にも言ってはくれなかった・・・。)
 
なんだかんだ言っても守へのリスペクトの気持ちは失っていなかっただけに未来は寂しかった。
 
(あっ・・・。)
 
眼前ではめずらしい守のミスキックが大きくゴールを外れ、後ろで見ていた級友達に襲いかかっていた。強烈な守のシュートを避けるのにみんな大童だったが、未来の目はその中の1人の男の動きに釘付けになった。
 
(えっ・・・。)
 
するとホイッスルの音が大きくグランドに響いた。
 
「よぅし、止め。今日の授業はここまで、全員着替えたら1530までに講堂に集合、校長の話がある、いいな。」
 
続いて聞こえてきた教官の大声を未来は遠くに聞いていた。
 
 
卒業航海はもう2日後に迫っていた。藤堂校長の話とはきっとそれに臨むに当たっての心構えなどの訓示に違いない。どちらにしても退屈な時間である、生徒達は体育後の疲れもあって居眠りが出ないか、心配しながら講堂に入った。
 
案の定、藤堂の話は杓子定規なごくありふれた訓話だった。あくびをかみ殺す生徒が続出する中、未来もこの全く好意の持てない校長の話をうんざりしながら聞いていた。だが、その怠惰な時間は突然に破られた。藤堂が突然、こんなことを言い出したからだ。
 
「最後に、この航海での成績判定は男女統一で実施する、以上。」
 
そう言うとあっけにとられる一同を残して、藤堂はさっさと降壇して講堂を後にした。
 
(今、校長は確かに・・・。)
 
呆然と藤堂の後ろ姿を見送っている未来に一人の級友が飛びついてきた。
 
「西本さん、やったね!とうとう。」
 
未来の周りには大勢の女子生徒が駆け寄ってきていた。彼女達に、もみくちゃにされながら未来は尚も事態が呑み込めずに立ち尽くしていた。
 
「なにを考えているんだ、校長は。」
 
舌打ちしながら藤堂の後を追う男子教官が数人いた、どうやらこのことは藤堂の独断だったらしい。女子の歓声が響く講堂、一方の男子生徒達はなんとなく居場所を失ったような形になり、三々五々声もなく講堂を後にせざるを得なかった。
 
 
黙って歩き出した守に友人達が近寄ってくる。
 
「古代・・・。」
 
「なに情けない顔してる、女子のパワーに今更恐れを為してるようじゃ、日本男児の名がすたるぞ、ハハハ・・・。」
 
そんな周りの連中に檄をとばしながら、なぜか守は心の中が晴れやかになる自分を感じていた。
 
(俺は心の中で本当は西本を応援していたんだろうか。)
 
その答えは自分でも守は見つけることはできなかった、ふと横を見るとそこには志郎が何事もなかったかのように平然と歩いている。
 
(何があっても動じない奴だ、こいつこそ一体本当はいくつなんだ・・・。)
 
守は内心苦笑いになる。
 
 
講堂での歓喜の時が一段落した後、未来は何人かを引き連れて、校長室を訪ねた。むろん、今回の藤堂の決断に感謝の意を表す為である。
 
ノックをしようと未来がドアの前に立つと、ドアが開き、中から先ほどの教官達が憮然たる表情で出てきた。どうやら校長に詰め寄ったものの、見事に撥ね付けられたようだった、未来の顔を見ると教官達は顔を背け、足早に立ち去って行った。未来は改めてノックをする。
 
「校長、西本生徒です。入室してもよろしいでしょうか。」
 
「どうぞ。」
 
承諾の返事に未来達は中に入った。藤堂は穏やかな顔で彼女達を出迎えた。
 
「校長、この度は本当に・・・ありがとうございました。」
 
深々と頭を下げながら未来はにじみ出る涙を抑え切れなかった。
 
「いや、礼を言われると恥ずかしい。むしろ今まで決断できなかったことを申し訳ないと思っているくらいだからね。西本君、並びに諸君、長い間待たせてすまなかった。」
 
そう言うと藤堂は逆に未来達に頭を下げた。これには未来も慌てる。
 
「校長、お止め下さい。私達こそ、これまで生意気なことを申し上げて・・・。」
 
「君達の正論を今まで取り上げられなかったのはひとえにこの藤堂の非力の為だ。今回も卒業航海のみの処置であり、君達の3年間の成績に影響させることは残念ながらできない。」
 
「承知しております。それでも校長のご決断のお陰で、第一歩はとにかく踏み出されました。本当にありがとうございます。」
 
「実はね・・・はっきり言えば『いたちの最後っ屁』みたいなものだよ。」
 
「はっ?」
 
「あっ、これは女性を前にして品のない言葉を使ってしまったな。私は今期をもって校長を退任することになった。あとは野となれ、山となれということだよ。」
 
「校長・・・。」
 
「ただ、男女の成績統一管理は現校長として本部の教育局長に進言しておいた。まぁ苦い顔をして聞いていたが、その人物も今度異動になるから、後任に申し継ぎすることは約束させたよ。まぁ後任はもう少し話の分かる奴だと聞いている、確か藤堂とか言ったかな、ハハハ・・・。」
 
「校長・・・。」
 
未来は恥ずかしかった、こんな人物を今の今まで軽蔑し切っていた自分が。
 
(こういう方がいずれトップに座る組織なら、私はそこにすべてを賭けられる。)
 
未来の迷いはもう吹っ切れていた。
 
 
                             [4]
 
 
そして旅立ちの前日になった。授業もつつがなく終わり、夕食のあとの自由時間を第12期生達は思い思いの場所で過ごしていた。
 
明日は地上での実技検定をこなした後、いよいよ出航である。帰ってくればすぐ卒業式、そしていったん各自帰省したあと、それぞれの任地へ赴任と慌しいスケジュールになっている。つまり、彼らにとって、今夜が事実上、この思い出深い学び舎でゆっくり過ごせる最後の夜であった。
 
守はやはり大勢の仲間に囲まれ、にぎやかに語らっていた。彼を慕う後輩達も彼との別れを惜しむかように集っている、1人静かに感慨にふけるなんていう図はやはり守には似合わなかったし、またそんなセンチな時間を周りが許してくれそうもなかった。
 
(最後まで古代君はやっぱり古代君だな。)
 
そんな守の様子を横目で見ながら、未来は考えていた。今夜、未来にはどうしても会って話をしたい人物がいた。その人物は今もあの部屋にいるはずだった。だが、その人物を訪ねることは、未来にとってはとても勇気のいることだった、しかし今夜を逃せばその機会はもう二度とないかもしれない。時間は刻々と過ぎて行く 。
 
(やっぱり行こう。)
 
就寝時間も近い、未来は自分を奮い立たせて立ちあがった。
 
 
ドアの前で、未来はまた躊躇した。しかしここまで来てもう引き返す手はない、思い切って未来はノックをする。
 
「どうぞ。」
 
中からの声に応じて未来は夢中でドアを開いた。
 
「えっ?」
 
入ってきた未来を見た志郎は明らかに動揺していた、いつものごとく、守がやって来たのだとばかり思い、気楽に返事をしたら、全く予想もしない人物が入ってきたのだから。
 
「西本さん・・・どうしたの?」
 
「お礼を言いに来たの。」
 
「お礼?」
 
「うん、応援してくれたお礼を。真田君だけだったんだよ、私に頑張れって言ってくれた男の子は。」
 
いつもの未来らしくなく、いやひょっとしたら本当の未来らしく、はにかみながら未来は言う。
 
「君が言ってることが間違ってると思えなかったからな、でも改まって礼なんか言われると困るよ。実際のところ、僕はそれ以上、別になにか君に、してあげられたわけじゃないんだから。」
 
「ううん、いいの。とにかく、私にはとても嬉しいことだったから。」
 
「・・・。」
 
ぎこちない空気が部屋の中を支配する、未来も志郎も決して広くもない部屋で異性と2人きりなんてシチュエーションに慣れてはいない。
 
「それだけ・・・?」
 
その空気に耐えかねて、志郎は実もふたもない言い方になる、未来は表情を改めた。
 
「ううん、実は君に聞きたいことがある。」
 
「聞きたいこと?」
 
「ええ、ねぇ・・・。」
 
一瞬の間の後、未来は思い切って言った。
 
「真田君、君はどうして真面目にやろうとしないの?」
 
「西本さん・・・。」
 
この娘はいきなり、なにを言い出したのかと困惑を隠せない志郎に、未来は堰を切ったように続ける。
 
「君は本当は何でもできる、射撃も操縦も他のことも人並み以上に。なのにそれを隠してる、どうしてなの?」
 
「なんでそんな突拍子もないことを急に・・・。」
 
「私にはわかる、だってずっとあなたのことを見てたんだもの。」
 
「えっ?」
 
未来の言葉に驚いて志郎は彼女を見る、一方の未来も思わず口走ってしまった自分の言葉に慌てながら、続ける。
 
「いや、とにかくその・・・例えば昨日のサッカ−よ。」
 
「サッカー?」
 
「ええ、古代君がシュートを外した時、他のみんなは大慌てで逃げるのが精一杯だった。でもあなたは違った、古代君がシュートする寸前の変調を察してもう身構えて、そしてボ−ルが来る方向を一瞬にして見定めて、いとも簡単に体をかわした。素晴らしい洞察力と運動神経。古代君に匹敵する・・・ううん、それ以上かも しれない。」
 
「・・・。」
 
「でもあなたはそれを授業中に見せたことがない、ただの一度も、それはなぜなの?」
 
「・・・。」
 
「真田君、私はどうしても納得できないの。」
 
なにも答えようとしない志郎に未来は懸命に言う。
 
「私はこの3年間、古代君達と同じ土俵に立ちたくって必死に頑張った。いろんなことを言われて、私だって決して平気だったわけじゃないよ、悔しかったし、悲しかった。やっと最後の最後に願いがかなって今は本当に嬉しい。でも私がこんなに恋焦がれて、立ちたかった舞台にあなたは全く興味を示さなかった、当たり前 のように立てるのに、また立って活躍する資格があるのに・・・正直言って私は許せない、真田君にとってはくだらないこと、つまらないことだったのかもしれない。でもあなたも宇宙戦士を志した以上、そんな態度は許されない。あなたはずるい、いえ卑怯よ!」
 
入ってきた時とは一転して厳しい表情になった未来、そんな未来を志郎は少し見つめていたが、やがておもむろに上着を脱ぎ始めた。
 
「な、なにをするの。」
 
これには未来も思わず後ずさりする、2人きりの部屋で男がいきなり服を脱ぎ始めたら、驚かない女はいないだろう。だが、下着代わりのTシャツも脱ぎ捨てた志郎の上半身が目に入った時、未来は思わず目を背けてしまった、無数の傷、更に未来を愕然とさせたのはそのむきだしになった腕が明らかに作り物だったことだっ た。
 
「真田、君・・・。」
 
「小学校4年生の時だった。」
 
言葉を失う未来に、また衣服を整えながら志郎は淡々と話し始めた。
 
「家族で月の遊園地に遊びに行った、そこで僕は姉貴と一緒にロケットカーに乗った。そして事故は起こった。」
 
「・・・。」
 
「姉から無理矢理ハンドルを奪った挙げ句、暴走した僕が引き起こした惨劇だった、姉は亡くなり、僕は命こそ取り留めたが、両手両足を失った。」
 
「足も・・・。」
 
未来は思わず志郎の足に視線を落とす、が無論外目からはなにもわからない。
 
「ご覧の通り、僕は人付き合いが得意でないし、好きでもない。小さい頃から絵が好きだったから、絵描きになりたいと思っていたんだ。でもその事故以来、僕の人生は変わった、姉を殺したのは確かに僕だ、しかし人間を幸せにするはずの文明の利器が結果として人を殺す、不幸にする。僕にはそれが許せなかった、だから 僕は科学者の道を選んだ、僕は自分の手で科学を屈服させ、もう二度と姉のような悲劇が繰り返されないようにする為に。僕が訓練学校に入ったのは、科学者になる手段として選んだだけだ、だから申し訳ないが、他のことにはなんの興味もない。」
 
「でも真田君、今あなたがこうして生きて、動けるのは科学の力のお陰じゃない。」
 
「冗談じゃない!」
 
未来の反論に、それまで淡々としていた志郎が初めて声を荒げた。
 
「こんな姿になってまで生き延びて、それが本当に幸せか、それに本当に責任のある僕が生き延び、巻き添えを食っただけの姉が死んだ。そんな理不尽なことをする科学が僕は憎い!」
 
「真田君・・・。」
 
「そうさ・・・確かに僕は生き延びた、だが実質的にはあの時、僕は死んだんだ。僕はもう人間じゃない、いわばサイボーグだ。こんな作り物の手足で、君達と競って、そして勝ったとしてそれが一体なんになるって言うんだ、そんなの、なんの意味もない。」
 
予想もしなかった志郎の壮絶な告白に未来がそれ以上、なにも言えなくなってしまった、その時である。
 
「それは違うぞ、真田!」
 
立ち尽くす未来の背後から鋭い声が飛ぶと扉が開いた。
 
「古代・・・。」
 
「古代君・・・。」
 
入ってきたのは守だった。
 
「すまん、立ち聞きする気はなかったんだが・・・。」
 
まずはすまなそうに二人に言い訳した守だったが、すぐに厳しい表情になる。
 
「真田、お前は今、間違いなく生きてる。そしてやろうと思えばなんでもできるんだ。なのにその可能性を自ら閉ざしてしまうなんて、そんなバカなことがあるか。お前がそんな風に自分を投げてしまったら、亡くなったお前の姉さんは浮かばれないぞ。」
 
「例え手足が生まれた時のものではなくなってしまったとしても真田君が真田君でなくなる理由なんてどこにもないじゃない、そうでしょ。」
 
「・・・。」
 
守と未来の懸命の言葉にも、志郎は黙然と2人を見つめるだけだった。そんな志郎に守は続ける。
 
「俺は一端のお前の親友のつもりだったが、お前のそんな悩みや苦しみに全く気がつかなかった、すまない。お前の気持ちはわかるなんて気休めを言うつもりはない、だけど、俺はお前の友達としてこれだけは言っておきたい。真田志郎は素敵な奴だ、俺はお前と出会えただけで、この訓練学校に入ってよかったと思ってる。 少なくとも1人の人間にそう思わせる価値がお前にはあるんだ、それだけは忘れないで欲しい。」
 
そう言い終わると守は踵を返すように部屋を出て行った。
 
 
志郎の研究室から生徒舎へ戻る道すがら、守はふっと空を見上げた。その見上げた夜空には満天の星が輝いていた。
 
(そう言えば、火星はどっちの方向だったっけな?)
 
そんなことを考えながら空を見上げていた守は背後の気配に振り返った。
 
「さすがだな。」
 
「えっ?」
 
突然の守の言葉に未来は驚いたように立ち止まると、彼を見つめた。
 
「真田の本当の姿に気付いているのは俺だけのつもりだったんだけど。」
 
「・・・。」
 
「ずっとあなたを見ていた、か・・・。」
 
そう言って微笑を浮かべた守に思わず未来を顔を赤らめる。
 
「あなたね・・・『君』も凛々しくていいけど、男としてはやっぱり女の子には『あなた』って呼ばれた方がいいかな。」
 
「ちょっと・・・からかわないでよ。」
 
「別にからかってなんていないよ、ただ真田の奴が、少し羨ましくなっただけさ。」
 
「古代君・・・。」
 
ここで守は表情を改めた。
 
「でも、いいのか?」
 
「えっ?」
 
「真田に本当に話したかったことは、別にあったんだろ?」
 
その言葉に一瞬、守を見つめた未来だったが、すぐに静かに首を横に振った。
 
「ううん、いいの。今はやっぱりそんな時じゃないし、彼の話に同情して、急にそんなことを言い出したなんて思われたくない。それに・・・真田君は私のことなんか、なんの興味もないみたいだから・・・。」
 
「そうかな?」
 
「えっ?」
 
「あいつは、俺にもひた隠しにしていた自分の秘密を君には話した。結果的に俺も知ってしまったけど、でも真田は本当は、君にだけ話そうとしたんだ。だいたい、興味もない娘にそっと、頑張れなんて言わないだろ。」
 
「・・・。」
 
「ま、いいさ。とりあえずこれで俺にもまだチャンスは残ったってことだ、そうだろ?」
 
そう言うと守はニヤッと笑った。
 
「古代君・・・。」
 
つられたように未来も笑顔になった。
 
「さぁ、とりあえずは明日だ、もう意味ないトップだなんて誰かさんにほざかせない様に、完膚なきまでに叩きのめしてやる。覚悟しとけ。」
 
「望むところよ、この日の為に、私はその気になれば確実だった、学園のアイドルの座を棒に振ったんだから。そっちこそ覚悟しときなさいよ。」
 
「なに言ってる、そのわけのわからん自惚れも含めて、全部吹っ飛ばしてやる。」
 
「言ったわね!」
 
守と未来が笑顔を交し合ったのは本当にいつ以来だっただろうか。
 
 
                     [5]
 
 
卒業航海が始まった、3年間の集大成、誰もが目指すスペースシーマンになりたい、訓練生の気合は十分だった。みんな、自分のことで精一杯だったが、そんな中、激しく行われるトップ争いへの興味も失われたわけではなかった。
 
古代守に星野健が競りかけるというのはいつものことだったが、そこに今回は、西本未来が加わっていた。もっとも本来、統一順位になっても、トップ5は外さない実力の持ち主と目されていた彼女だけに、それはむしろ、当然のように受けとめられたが、一同の耳目を惹いたのは、全く予想もしていなかった男がそこに加わ ったことだった、真田志郎である。
 
いつものように黙々と、ただいつもとは全く違う志郎の動きに、担当教官達でさえ、あっけにとられるばかりだったが、そんな中、1人の生徒がそっと守に近付いた。
 
「なぁ古代。」
 
「うん?」
 
「こないだ本気になったら恐いって言ってたのは、真田のことだったのか?」
 
「もちろん。」
 
平然と答える守に絶句する友人。
 
「あいつはあのくらいやれて当然の男だ。それに奴の専門分野じゃ、俺達は逆立ちしたってあいつには敵わない。どうやら、12期のクラスヘッドは俺じゃなくてあいつだったみたいだな。」
 
「おい、古代・・・。」
 
「それにしても、なんだってあいつ急に、この期に及んでやる気を出したんだ?全く迷惑な話だ。」
 
だが、言葉とは裏腹に、守はなぜか嬉しそうな笑顔を見せた。
 
 
3日間の航海の結果は地球への帰還直後に発表された。
 
トップは古代守、以下星野健、西本未来、真田志郎と僅差で続き、幸いなことに12期生からは落伍者は出ず、無事に全員、明日の卒業式を迎えられることになった。
 
そして正真正銘、12期生達にとって訓練学校での最後の夜がやって来た。明日の卒業式で藤堂校長から卒業証書と辞令が各自に直接手渡されると、そのまま卒業式出席を兼ねて、迎えにきた保護者達と共にここを後にすることになる。明日の夜にはもう彼らの姿はここにはない。
 
守は暗くなったグランドを1人眺めていた、さすがの守も、今夜ばかりは少し感慨にふけりたかった。
 
3年間の想い出が走馬灯のように守の胸によぎる。すべてが良き想い出ではないはずだったが、しかし今の守の中には、言い知れぬ充実感があった。
 
「古代。」
 
そんな守に呼びかける声がした。振り返るまでもなく、それが誰か守にはわかった。志郎は両手に荷物を抱えて立っていた。
 
「いよいよお引越しか・・・。」
 
「ああ、この続きはどこでやることになるのかな。」
 
志郎はそう言いながら守の横に立つと荷物を地面に置いた。
 
「あっという間だったな、3年。」
 
「うん・・・お別れだな。」
 
「お前らしくなく、おセンチなことを言うじゃないか。」
 
「最後だから覚えとけ、俺は本当はとてつもないロマンチストなんだぜ。」
 
2人は声を立てて笑う。その後、笑顔を収めた志郎は改めて、守を見ると言った。
 
「ありがとう。」
 
「えっ?」
 
「なんとなく、俺もいろいろ頑張ってみようかと思えるようになったよ、古代のお陰だ。」
 
「本当か?礼を言う相手が違うんじゃないか。」
 
「なにを言ってるんだ。」
 
守の冷やかしを志郎がサラリとかわした時、また後ろから声がした。
 
「あれ、こんな所で男の子同士でデート?」
 
当の未来の登場に、2人は驚いた。
 
ものおじせず、男2人の横に立った未来の表情は今までとは別人のように輝いていた。そんな未来に志郎は話し掛けた。
 
「西本さん、今度は僕がお礼を言う番だ、本当にありがとう。もしあのまま卒業していたら、僕は自分の殻に閉じこもったままの、頑なな人間になってしまったかもしれない。科学を憎む気持ちは変わらないけど、でも科学の力の恩恵を受けていることもまた、間違いない。あまり思い詰めずにやっていくことにするよ。」
 
「真田君、頑張ってね。」
 
「ありがとう、君もな。」
 
「ええ。」
 
なんとなくいいム−ドの志郎と未来に守が割って入る。
 
「なんだよ、俺には頑張ってって言ってくれないのか。」
 
「古代君にはそう言ってくれる娘が山ほどいるんじゃなくって。」
 
「ちょっといい加減してくれよ、もてるって言われて悪い気はしないから、ほっておいただけで、俺は光源氏でもドンファンでもないんだぞ。」
 
「さぁどうだか。」
 
「おい。」
 
「ハハハ・・・。」
 
モテ男と言われている守のすっかり形無しの様子に、志郎は思わず笑ってしまう。そんな2人を交互に見ながら、未来は続けた。
 
「とにかく、私は今、とても嬉しい。最後の最後だったけど、私はやっと君達・・・あなた達の仲間になれた。私こそ、あのままだったら一生、屈折した気持ちを引きづったまま、いなきゃならなかった。学校は明日で卒業だけど、宇宙戦士としての私達は本当にスタートラインにまだ立ったばかりだわ。これからも一緒に成 長して行こう。」
 
「うん。」
 
未来の言葉に2人が大きくうなづいた時、また横合いから声がした。
 
「よかったら、その仲間に俺も加えてくれないかな。」
 
「星野君・・・。」
 
現れたのは、星野健だった。
 
「俺は古代、お前だけを見て来た。1度でいい、お前に勝ちたい、その一念でやって来た、とうとう勝てなかったけどな。それどころか、最後は逆に、西本さんや正直言って眼中にもなかった真田にまで肝を冷やされた。のぼせ上がって、夢中で前だけ見つめていたら、後頭部をガツンとやられてしまった。」
 
星野はそう言うと未来を見た。
 
「西本さん、君は凄い人だね。3年間、よく腐らずに努力したな、俺にはできないよ、たぶん。実はずっとそう思ってたんだけど、もっと早く言えればよかった。遅過ぎるよな。」
 
「ううん、星野君にそう言ってもらえるなんて・・・素直に嬉しいわ。」
 
笑顔で答える未来、ひょっとしたら星野が見る初めての未来の笑顔だったかもしれない。今度は星野は志郎の方を向いた。
 
「真田、お前の寝たふり、死んだふりには恐れ入ったな。だがせめて半年くらい前には正体を現して欲しかったぜ。」
 
「星野・・・。」
 
これには志郎も苦笑いをせざるを得ない。
 
「そして、古代。」
 
「うん?」
 
「負けた、お前には完全に負けた、素直に認めるよ。だがお前がいたから、俺は頑張ってこられた、負けたのは悔しいが、その点ではお前に感謝している。ありがとう。」
 
「俺の方こそ、お前がいなければ、ひょっとしたら自堕落な学校生活を送ってしまったかもしれない。礼を言わなきゃならんのはこっちだよ。」
 
「だけど古代、勝負はまだまだこれからだ、俺は絶対諦めないからな。」
 
「ああ。」
 
星野の言葉にうなづいた守は改めて3人の同期生を見た。
 
「星野、真田それに西本さん、俺はみんなに出会えたことが嬉しい。そして星野とも西本さんとも最後に笑顔で別れられるようになれて、本当に嬉しい。成績だけがすべてじゃない、そう思ってきたはずなのに、成績が俺達の間に遠ざけ、それが判っていながら俺もその拘りから逃れることができなかった。でも最後に真田の お陰で俺達の間の壁が取り払われたんだ。」
 
「俺の?」
 
「そうさ、お前みたい奴がいるんだ、訓練学校あたりで、ちまちま成績争いしてたって仕方ないって教えられたんだよ。」
 
「なんだそれ、誉め言葉なのか?」
 
これにはみんな大笑いになる。
 
「それはともかく、みんな、これからは会う事も少なくなるだろう。でも遠く離れても、切磋琢磨しあって、お互い、恥ずかしくないプロフェッショナルになろう。約束だぞ。」
 
「ああ。」
 
「うん。」
 
守の言葉に大きくうなづく3人、そして守のスッと差し出した右手の上に相次いで手を重ねて行った。古臭い青春ドラマのワンシーンみたいだったが、今はためらいもなく、そんなことができた。
 
「頑張ろう、みんな。」
 
未来の言葉が改めて、守達の心に響いて行った。
 
                                           
                         [6]
 
 
それから10年の月日が流れた、いろいろなことに悩みそしてさまざまことを乗り越えようとしていた訓練生達はそろそろ中堅として、各部署で責任あるポジションに着き始めていた。
 
真田志郎は第3ドックの責任者になっていた。そして今、彼は1隻の宇宙艦を前に半ば呆然と立ち尽くしていた。
 
(これは・・・ひどい。)
 
志郎は暗然と心の中でつぶやいていた。
 
(この艦が本来来るべきなのはここじゃない、解体工場だ。)
 
志郎がそう思わざるを得ない程、目の前の艦の損傷は激しかった。だが今の彼に与えられた指令はこのスクラップとも見まがう目の前の宇宙駆逐艦「ゆきかぜ」を3日後の出航に合わせて、戦えるように整備せよという、ほとんど無茶苦茶なものであった。
 
(たった3日でなにができるというのだ、魔法使いでもない限り、そんなことができるものか!)
 
西暦2199年、地球はガミラスが放つ遊星爆弾により地上を徹底的に破壊しつくされ、更に爆弾から放出される放射能による汚染を避けるべく、生物は地下に人工都市を作って移住せざるを得ないところまで追い詰められていた。
 
このままでは座して死を待つしかない、追い詰められた地球側は乾坤一擲、敵の基地があると目される冥王星で決戦を挑むべく、その準備を進めていた。
 
虎の子とも言える地球防衛艦隊に出撃命令が下されたが、その実態は「日本残存艦隊」と言って差し支えなかった。敵の強力兵器の前に、地球艦隊は次々と撃滅され、結局は幾多の軍事大国ではなく人類で唯一の被爆体験を持つ民族である日本が一番健闘しているという皮肉な現実がそこにあった。沖田十三司令官以下、出撃 するクル−達の戦意は尚、盛んではあったが、実際には数合わせの為に、こんなことまでしなくてはもう、艦隊の態を為さないほどの状況だったのである。
 
(正直、もう勝ち目はない。これ以上の抗戦は人類にとって自殺行為でしかない。)
 
冷徹な科学者としての判断が、現実から目を背けることを許さない。志郎はエレベータ-で駆け上って、そう上層部に訴えたい心境に駆られていた。だが・・・
 
(俺にはやはり言えない。俺だって宇宙戦士の端くれ、命ある以上、降伏なんか絶対したくない。)
 
戦士と科学者の狭間で、志郎は苦悩していた。
 
(俺はやはり、この艦の出撃を黙って見守るしかないのか・・・しかし、そうなったら・・・。)
 
そんな志郎の心境とはあまりにもかけ離れた快活な声がドックに響いたのはその直後だった。
 
「どうだ、戦えるようになったか。」
 
振り向いた志郎は思わず顔を歪める、そこに見たのは懐かしい友の姿だと言うのに・・・。
 
「あ、ああ・・・。」
 
言葉を濁す志郎の心境にお構いなしに、古代守は大股で近付いてきた。
 
「そうか、3日後には出撃だ、冥王星戦線だ。ここで負けたら地球はもう後がない。」
 
「・・・。」
 
志郎には、ほとんど手の施し様がないとしか思えないこの艦の艦長は皮肉にも守その人だった。
 
(俺は1番の親友と信じているこの男を死地に送り出そうとしている。それが本当に正しいことなのか・・・。)
 
幾多の激戦の結果、あの訓練学校での最後の夜に永遠の友情とたゆまぬ努力を誓い合った4人の仲間のうちの1人、星野健は既に戦死を遂げてしまっていた。星野だけでない、多くの同期生もまた、尊い命を落としている、だがその死は報われてると言えるのか・・・。
 
「古代。」
 
たまりかねて、呼びかけた志郎の心中など知らぬ気に守は続ける。
 
「これから沖田司令官を囲んで作戦の打ち合わせだ、せっかく久しぶりに会えたのに、ゆっくり話もできなくて残念だが、帰って来たら、心置きなく飲もう。じゃあな。」
 
いつもと変わらぬ様子で、そう言って志郎の肩をポンと叩いた守は足早に部屋を後にした。
 
(古代!)
 
志郎はたまらなくなって駆け出そうとした、守を追いかけようと思ったのだ。
 
(古代、行くな!行ったらお前はもう絶対に生きては帰ってこられん!)
 
そう叫びたかった、しかし結局は追い掛けることも、叫ぶことも志郎にはできなかった。
 
(俺は・・・俺にはなにもできないのか・・・。)
 
志郎はただ立ち尽くすだけだった。
 
 
そんな志郎に背を向けて歩き出した守からは、志郎に見せていた精悍で明るい表情がみるみる消えて行った。そしてふと扉の外で待っていた人物に気がついて、足を止めた。
 
「来てたのか、副長。」
 
副長と呼びかけられて、黙ってうなづいたのは西本未来であった。そんな彼女になんで入ってこなかったんだなどと無粋なことは、守は言わない。
 
卒業して10年、10年も経つというのに志郎と未来はその心中にある相手への想いを未だに、告げられずにいた。2人の気持ちにとうに気付いている守は自らの未来への淡い想いは振り捨て、その行方を見守っていたのだが、2人の仲は一向になんの進展も見せないまま、今日を迎えてしまっていた。
 
なにをクズクズしてやがる、傍で守は苛立ち、やきもきしていたのだが、こればかりはどうしようもない。1人は内に、1人は外にと、ただでさえ、会う機会も少なかった上に、優秀な2人は徐々に多忙となって行き、そのポジションもどんどん重くなって行き、そうこうしているうちに、ガミラスの騒動が起こり、いよいよ それどころではなくなってしまったのである。
 
そして今、守と未来が、同期生でありながら同じ宇宙艦で艦長と副長としてコンビを組む事態になっていた。同期生のコンビも異例なら、30歳にも満たない2人がそんなポジションにつくのも異例、更に言えば志郎のドック責任者も抜擢と言える。彼らの優秀さを物語っているとも言えるが、深刻な人材払底の結果とも言えた 。
 
それはともかく、久しぶりに遭遇した志郎の前に姿を見せるのを躊躇する未来の複雑な女心に守も胸をつかれる。
 
「西本。」
 
上官である守にそう呼びかけられて、未来は軽く姿勢を正した。
 
「君は・・・このままゆきかぜを降りろ。」
 
「なんですって!」
 
あまりにも意外な守の一言に未来は愕然と彼を見た。
 
「安心しろ、君だけじゃない。ゆきかぜの女子乗組員は全員置いて行く。」
 
「ちょっと待って、古代君。」
 
ゆきかぜに乗り組んでからは意識して守を「艦長」と呼んできた未来だったが、今は思わずそう呼んでしまっていた。
 
「なんで急にそんなことを言い出すの?まさか、この期に及んで女は足手まといだなんて・・・。」
 
「違う!」
 
「じゃどうして・・・。」
 
詰め寄る未来に守は言う。
 
「今の真田の顔を見なかったのか?」
 
「えっ?」
 
「すまん、この艦はもう地球には帰って来られない、真田の顔にはそう書いてあった。」
 
「古代君・・・。」
 
「俺はこの艦の艦長だ、あいつに言われるまでもない、この艦のことは誰よりもわかっている。そんな艦に君を乗せるわけにはいかない。」
 
「どういうことよ、わからない、ちゃんと説明してよ。」
 
怒りすら見せて抗議するする未来に、守は続けた。
 
「君は真田に親友だけでなく、慕い人まで見殺しにしたという負い目を背負わせて、これから1人で生きて行かせるつもりなのか。」
 
「古代君・・・。」
 
一瞬、言葉を失った未来だったが、すぐにかぶりを振った。
 
「嫌よ、私は絶対に嫌!こんな時、あなただけを行かせて残るなんて、私には絶対にできない。私はゆきかぜの副長よ、肝心な時に外されて、なにが副長よ。」
 
「未来!」
 
「えっ?」
 
突然、初めて守に名前を呼び捨てにされて、驚く未来。そんな未来に、守は真剣そのものの表情で言う。
 
「今から言うことを怒らないで聞いてくれ。」
 
「古代君・・・。」
 
「なぁ未来、どんなに時代が変わろうとも、どんなに人の価値観が変わっても、永遠に変わらないことがある。それは・・・人類の、俺達の『未来』を創り出す、いや産み出すことは絶対に女性にしかできないってことだ。」
 
「古代君・・・。」
 
未来は呆然と守を見る。
 
「無論、男が死に絶えてしまったら話にならない・・・けど、君達がいてくれる限り、人類は決して『未来』を失うことはない。」
 
「・・・。」
 
「俺達はこれから、その『未来』を守る為に死にに行く、せめて俺達にそう思わせてくれ。頼む、この通りだ。」
 
そういうと守は深々と未来に頭を下げた。
 
だが、未来はうなづけなかった、うなづきたくなかった。あくまで守と一緒にゆきかぜに乗り、軍人としての使命を全うしたかった。しかし、今、これ以上の抗弁は守を苦しめるだけだ、未来はついに諦めた。
 
「・・・古代君、さよならなんて言わないからね。最初から死ぬ気で行くなんて古代君らしくない、絶対に帰って来て、だって、あなたには、私と真田君の結婚式に出てもらわなくちゃ困るもん。」
 
「未来・・・。」
 
一瞬、微笑みあった2人だったが、すぐにその笑みは消えた。
 
「副長、最後の命令を下す。ゆきかぜ女子乗組員を召集して、こう伝えてくれ。『艦長の古代が女は足手まといだから出て行けと言っている』とな。」
 
「艦長・・・。」
 
突然の守の言い草に、戸惑う未来。そんな未来に守は苦しげに続けた。
 
「すまん、生き残って、『未来』を創り出すことが君達の幸せにつながるとは限らない。だけど、今は・・・許してくれ。」
 
そういうと守は未来にクルリと背を向けた。
 
「古代君!」
 
「あとを頼んだぞ、西本。幸せになってくれよ・・・未来。」
 
振り返りもせずそう言い残すと守は走り去った。
 
(古代君・・・。)
 
今、守の後姿を見送ることはあまりにも辛過ぎた、未来はとうとうその場に泣き崩れた。
 
 
                     [エピローグ]
 
 
 
そして・・・更に時は流れた。西暦2202年の晩夏、真田は1人、守の墓前にいる。
 
今の真田を包んでいるのは、切ないほどの孤独感であった。星野健はとうに亡く、古代守も数奇な運命に翻弄されるかのように、その短い人生を閉じてしまった。そして西本未来は・・・?
 
守と未来の最後の別れのドラマを真田は全く知らない。冥王星決戦が地球側の惨敗に終わり、辛うじて生還した沖田司令官を艦長に迎えた「宇宙戦艦ヤマト」という新造艦が、人類の最後の希望を託され、12万8千光年という途方もない航海に出ることを知ったとき、未来は敢然と乗り組みを志願した。
 
託された守の遺志に背くことになるとは思ったが、今が、自分の幸せを追い求める時とは、未来にはどうしても思えなかった。更にそのヤマトには、これまで地上勤務一筋だった志郎が、技師長として乗り組むことが内定していると聞いていた。人類の、いや地球上の全生物の命運が、かかったこの航海に、志郎と共に挑みた い、未来の意志は固かった。
 
だが、その彼女の思いは遂げられることはなかった。発表された乗組員の顔ぶれは志郎や沖田艦長の長年の片腕的存在だった徳川彦佐衛門といった少数の例外を除いては、未来の目から見れば、まるでヒヨッコのような若者達ばかりであった。沖田の希望ということだったが、女子乗組員として選抜されたのが森雪を始めとし た、自分より遥かに若い少女達であったのを見た未来は、その隠された人選意図を悟って、失意のうちに姿を消し、その行方は、その後も遥として、知れないままであった。そして、奇跡的に1度は戻ってきた守も、未来のその後を聞くと、彼女に関しては一切なにも、志郎に語らぬまま、亡くなってしまった。
 
 
「古代・・・本当にご苦労だったな、お前はいつも俺達のトップランナーだった。だけど、もういいぞ、もうゆっくり休んでくれ。正直に言う、俺は寂しい。だけど俺は生きるぞ、俺は命というものの尊さをお前に、お前達に教えてもらったんだ。だから、俺はこれからも精一杯生きる、お前達の分まで。見ていてくれ、古代 。」
 
懸命に祈り、そして語りかけていた真田だったが、ふと、いつのまにか、そんな自分をそっと見つめている人影に気付いた。
 
「古代・・・。」
 
それはむろん、今まで彼が語りかけていた守ではなく、進とその婚約者である雪であった。彼らも、戦死した兄を墓前に弔おうとやって来たのだが、真田のあまりの真剣な姿に声もかけかね、しばし立ち尽くしていたのであった。
 
「やぁ。」
 
「来てくださってたんですか、ありがとうございます。」
 
「一足先に、参らせてもらったよ。」
 
そう言うと真田は微笑した。
 
真田はこの親友の弟を、本当の弟のように思ってきた。そしてその恋人である雪にも同じような感情を抱いていた。まだ若い2人になんでこんな過酷な運命が次々と振りかかってくるのだろうと真田は思う。そしてついに今回、天はこんな2人を引き裂くことまでやってのけた。そんな試練を2人は懸命に乗り越えてきた。
 
そして今、自分の前に寄り添って現れた進と雪が、真田にたまらなく愛しかった。こんな健気な恋人達を絶対に不幸にはしない、彼らを守る為なら、今、友に誓った精一杯の自分の生を振り捨ててもいい。
 
(生きていたら、古代だってきっと同じことを考えただろう。それが生き残った俺の使命だ。)
 
真田は改めて、そう思っていた。
 
 
墓前を進と雪に明け渡し、真田は歩き出した。駐車場に向かおうと、階段を踏み出した真田は、思わず足を止めた。
 
(なんて素晴らしい眺めなんだ。)
 
今更ながら、その美しい光景が目に入ってきて、真田はしばし、その景色をじっと眺めていた。そして、どのくらいの時が経ったか、ようやくまた歩き出した真田の足は、だが、数歩もしないうちに再び、止まった。
 
(すると、あの花は一体、誰が・・・。)
 
真田が参った時、守の墓前には既に花が手向けられていた。当然、進達だろうと、真田は思っていたのだが、彼らは後からやって来た・・・。
 
 
じっと思いを馳せる真田の前に広がる空と海は、あくまで青く、そして美しかった。
 
 
 
                       [完]
 

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