理想を追えるか
亀井静香が張り切っている。かつて自民党で派閥の領袖を務め、総裁候補の1人だったはずなのに、いつの間にか党追放の憂き目を見て、以来苦節4年、いや森内閣下での自民党政調会長以来の久々の檜舞台へのカムバックである。菅、岡田なにするものぞ、本来なら鳩山だって格下じゃないか、たぶん内心ではそう息まいているのだろう。郵政民営化見直しの私案を口にした原口総務相にさっそく噛み付き、平成版モラトリアムを提起して波紋を投げ、藤井財務相にたしなめられても、どこ吹く風の鼻息の荒さである。亀井のバイタリティやメッセージの発信能力は鳩山内閣にとって得難いものではあるが、これが閣内不統一や不協和音にまで高まってしまっては「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、元も子もなくなってしまう。今後の鳩山首相の手綱さばきが注目される。
そして、もう1人政権交代に伴って浮上して来たのが、衆院外務委員長に指名された鈴木宗男新党大地代表である。
鈴木の指名については野党である自民、公明両党が鈴木が現在も公判中の刑事被告人であることを理由に「前例がない」と徹底して反対した。「彼が逮捕された時には、全会一致で辞職勧告決議案も可決されている」とも言ったそうだ。それに対して民主、社民の与党側は「有罪が確定していない以上、推定無罪」との論理で押し切り、横路孝弘新衆院議長が、他の常任委員長同様に指名して決着した。
早くも、ついこの間までのスタイルとは攻守逆転した姿が、明らかになったが、1、2審で実刑判決を受けている鈴木は、最高裁でこのまま刑が確定すれば、失職、収監を余儀なくされるのであり、今彼をこのような公職に就けることは、いささか時期尚早の感は否めない。橋本龍太郎が、自民党史上初の総裁選無投票再選を果たし、意気揚々と内閣改造を行い、当時ロッキード事件で有罪判決が確定したばかりの佐藤孝行を入閣させたら、途端に世論の猛反発をくらって人気が急下降したのを、思いだしたが、今のところはあまり厳しい反応は出ていないようではある。
思えば世間、マスコミからの袋叩きの中で逮捕されて以来、鈴木は一貫して「国策捜査」と訴え、無罪を主張して全面的に争い続けている。自分がいかに陥れられていったかを赤裸々につづった彼の著書「汚名」を、筆者は矢野絢也が書いた「黒い手帳」と立て続けに読んでしまい、かなり憂鬱な気分にさせられたが、それはともかく少なくとも鈴木本人は、外務省に裏切られ、人身御供にされたと信じ、2005年に国政に復帰して以降は復讐と怨念に満ちた告発と追及を続けており、かつて外務省を「支配」したともまた「庇護」としたとも言われた鈴木は今や、外務省の人間が「敵」と明言する存在になった。
だが、非難や反対にも当の鈴木は平然たるもの。北方領土が間近に望める道東に生まれ育ち、我が国有数のロシア通である彼がライフワークと公言しては憚らない「北方領土問題」に再び手を染め得るポジションに返り咲いたことが嬉しくて仕方ないらしい。
「鳩山総理からは、北方領土を頼みますと言われている。」
と意気軒高、その一方で国政復帰以来の彼の武器である「質問主意書」をこれからも出しまくって外務省を追及すると明言しており、外務省は戦々恐々とか。
正直、鈴木の「復帰」で、この超難問が急に動き出すとは思えないのだが、吉田茂の講和独立と並ぶ戦後外交の金字塔とされる一方で、現在まで領土という禍根を残したことで、批判の声も絶えない鳩山一郎の日ソ国交回復。爺さんのやり残したことを俺が成し遂げると、鳩山が意欲を燃やすのは良くわかる。そして鈴木、鳩山そして横路もみんな北海道選出の国会議員である。この解決を望んでいない日本国民は恐らく1人もいないのだから、彼らの奮闘を期待したいが、鈴木が結局監獄入りで途中退場などというなんともバツの悪い結末にならないよう、彼の為にまずは祈るしかない。
先日実家に寄って、暇潰しに持ち出した本がある。政治評論家の鈴木棟一氏がサンデー毎日から週刊ダイヤモンドと掲載誌を替えながら、中曽根内閣当時から今日まで同時進行で書き続けている政治ドキュメント「永田町の暗闘」である。今回持って来たのは、小渕内閣スタートから小泉内閣が誕生するまでの約3年間のものだったが、読んでみて驚いた。余りにもここ数年の状況と似ていたからだ。放り出しではなかったが、短期間でコロコロと内閣が替わり、出てくる首相達の人物の矮小化、政治家としての識見のなさは国民の政治離れ、自民党離れを助長するばかりで、森喜朗が登場するに至って、そのいらだちはピークに達しつつあった。ところが、そこに小泉という救世主が現れたのが、今回との大きな違いであった。
そして、第2の小泉は果たしているのか、再生を賭けた自民党総裁選が始まった。立候補者は3人だが、ベテラン勢をバックに優勢とされる谷垣禎一、失礼ながら当方の勉強不足で名前もよく知らなかった西村なんとかさんに対して、念願の総裁選出馬を果たした河野太郎が1人目立つ展開になっている。
党内融和、全員野球を訴える他の2人に
「全員野球には反対だ。悪しき伝統を引きずった人をベンチに入れてはいけない。」
と言い放ち、森と青木幹雄を名指しで非難、引退を求めただけでなく
「今回の選挙で選挙区で議席を得られず、比例で復活された幹部の方は後進に道を譲っていただきたい。」
と事実上、伊吹文明、額賀福志郎そして町村信孝と言った派閥会長クラスにまでパージを突き付ける暴れっぷり。これを「痛快」と見るか「単なるスタンドプレー」と見るかは、人それぞれであろうが、確かに森、青木それに安倍晋三なんて連中にはもううんざりではある。
「党内野党」的その言動は、かつての小泉純一郎を彷彿とするし、また先頃引退した河野の父洋平も、若い頃は離党して新自由クラブを結成するなど、大した暴れっぷりではあった。
だが、正直なところ、自民党の「若手」と称される連中が党の体質を批判し、暴れまわるという光景は見飽きてしまっている。洋平はもちろんのこと、石破茂、笹川尭そして太田誠一なんて面々も随分吠えまくり、一旦は離党までしながら、結局はうそうそと舞い戻り、いつの間にか幹部然として振る舞った揚句、笹川、太田あるいは小坂憲次、みんないなくなってしまった。彼らのように離党まで行かなくても、党を再生だの立て直すだのわめいていた連中は随分見たが、なぜかある時期からピタリと大人しくなり、あとは順調に「自民党の政治家」としてのふさわしくなる為の階段を登って行く。筆者はこれを「自民党若手議員のはしか現象」と呼んでいる。
もちろん野党に転落した今日、今までのような「お約束」のようなことを繰り返しているわけにはいかないだろうが、先の議員総会で総裁選推薦人の数を減らそうという緊急動議にほとんど賛成者がいなかったのを見ても、なんとも前途に不安を覚えないわけにはいかない。河野のいら立ちはわからないでもないが、あまりの過激論はただ空回りして、結局はなにも生み出さないのではないだろうか。
思えば、前回自民党が野党に転落した時、渡辺美智雄を破って総裁の座に就いたのは河野洋平だった。そして渡辺の子息の喜美は一足早く自民党に愛想をつかして離党、新党「みんなの党」を結成して、選挙に臨み、意外なほどの大善戦をした。そんな渡辺に河野はラブコールを送った、共に党を再生しようと。しかし、今のところは渡辺は公務員改革の同志と見て、民主党寄りのスタンスを崩す気配はない。巨大与党となった鳩山政権の前に、野党自民党の苦悩は深い。
だが、個性的なメンツを揃え、政治を変えると意気込む民主党及び社民、国新の連立内閣も、高い理想の前に立ちふさがる現実に、思考錯誤の毎日と見える。今は政治家も、マスコミもそして我々国民も、しばし学習の時のようである。
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